絶対数論の基礎研究として、もっとも基本的かつ重要と思われる多重三角関数論とその周辺の研究を行った。多重三角関数は三角関数の無限積表示を一般化して構成し、その基本性質と応用を様々に研究した。その結果、周期性、フーリエ級数展開、微分方程式等の基本的諸性質を確立した。通常の三角関数は線形の2階微分方程式を満たすが、多重版は非線形の2階微分方程式を満たす、という違いがある。また、多重三角関数の周期の等分点における値を詳しく調べ、クロネッカーの青春の夢との関連を考察した。さらに、多重三角関数の第一の応用として、リーマンゼータ関数の正の奇数における値やディリクレL関数の値など、不明だった数論的に興味深い特殊値に対し多重三角関数を用いた表示を与えた。次に、多重三角関数の第二の応用として、セルバーグゼータ関数の関数等式に現れるガンマ因子に多重ガンマ関数による簡明な表示を与た。この結果は、多重三角関数という新たな特殊関数が多様な面白い性質を持っている事を示している。また、この研究の発展として、多重三角関数のq-類似、オイラー定数のq-類似、ゼータ関数の絶対テンソル積、多重ゼータ関数論等を研究した。特に、絶対テンソル積の研究においては、多重化されたゼータ関数が多重版のオイラー積表示を持つという顕著な結果を証明した。ここにあらわれるオイラー因子は高次の数論的対象を指し示している。さらに、関連する研究として、絶対微分や圏のスペクトル、リーマン面のカシミール・エネルギー等の研究も行った。
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