研究概要 |
今年度は,コンパクトケーラー多様体Mに標準計量,特に定スカラー曲率ケーラー計量が存在するための条件を幾何学的不変式論の立場から与える問題を中心に研究した.特に,漸近的Chow安定性と定スカラー曲率ケーラー計量の存在との関連に大きな進展があった.すなわち,両者の関連を媒介する積分不変量の族を見いだした.この一方,代数多様体の退化を考察することの重要性が次第に明らかになって来た.これはC^*-作用のみを考えれば良いという,ヒルベルト・マンフォード判定法を検証することを具現化したものであるが,C^*-作用の重みを用いる代わりに二木不変量を用いてK安定性という概念を導入すると言うアイデアである。この安定性をやや弱めたK多重安定性という概念が,定スカラー曲率ケーラー計量が存在するための必要十分条件であろうと予想されている.本研究課題の海外共同研究者のChenとTianはごく最近K多重安定性が必要条件であることを証明した.この代数多様体の退化の特別な場合として,任意の部分概型に対し,法錐に退化するときの中心ファイバーの二木不変量が安定性の条件をみたす時,代数多様体はスロープ安定であると言われる.この概念はベクトル束のHitchin-Kobayashi対応において現れたスロープ安定性と類似の性質を持つ.このような事情からスロープ多重安定性も定スカラー曲率ケーラー計量が存在するための必要十分条件の有力な候補である.従って,K多重安定性とスロープ多重安定性とが同値かどうかは興味深い.更に,スロープ安定性をみたさない部分概型のイデアル層と,かつてA.M.Nadelによって導入された乗数イデアル層とは同一ではないかとも考えられており,これも興味深い問題である.
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