研究概要 |
不確定性原理の再定式化と量子情報数理解析学の構築について研究し,次の成果を得た. 1.完全正写像値測度に関する測定精度,擾乱の基本性質を調べ,測定過程のモデルを用いた定量化との関連を明らかにした.この研究により,一般の測定装置の誤差ε(A)はその装置が定める確率作用素測度だけで定まり,擾乱η(B)はその装置が定める跡保存性完全正写像だけで定まることが示された. 2.モデルにおける誤差作用素,擾乱作用素の交換関係を利用して,任意の完全正写像値測度に関する新しい不確定性関係ε(A)η(B)+ε(A)σ(B)+σ(A)η(B)≧(1/2)|<[A, B]>|を確立した.これから,擾乱を持たない測定について,σ(A)η(B)≧(1/2)|<[A, B]>|という関係を導いた. 3.Wigner-Araki-Yanaseの測定限界と新しい不確定性関係から得られる擾乱をもたない測定の制限との関係を明らかして,対象と測定器の間の測定相互作用が,対象の物理量L_1と測定器の物理量L_2の和を保存し,測定器のメータが物理量L_2,可換であれば,この測定の測定誤差はε(A)^2≧|<[A, L_2]>|^2/(4σ(L_1)^2+4σ(L_2)^2)で定まる下限を持つことを示した. 4.Wigner-Araki-Yanaseの定理は1952年にWignerによって最初に発見された測定の制約であるが,これと不確定性原理の関係を解明することは長年の未解決問題となっていた.本研究により,Wigner-Araki-Yanaseの定理は従来の限定された不確定性原理の定式化からは導かれないが,不確定性原理の新しい普遍的定式化から容易に導かれることが示された. 5.以上の関係を量子計算素子の量子雑音解析に応用し,新しい不確定関係から保存量と交換しない計算基底を用いた場合の量子計算素子に対する計算精度の限界を導いた. 6.これらの成果により,従来の情報理論にはない新しい不確定性原理に基づく量子情報の一般理論を構築するための基礎を確立することができた.
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