研究概要 |
本研究課題の目的はパンルヴェ方程式論と複素力学系理論の融合である。その鍵はパンルヴェ方程式の大域解の多価性を表現する非線形モノドロミーを複素離散力学系とみなし,その構造を複素力学系理論の手法を用いて解析することである。この目的に向かうために,今年度,岩崎克則(研究代表者)はパンルヴェ方程式に力学系理論を適用するための幾何学的な基盤整備を行うと共に,力学系理論に固有の種々の知識を修得するための勉強を行った。その際に専門家としての石井豊(分担者)の知見が役立った。 具体的には,基盤整備に関しては,パンルヴェ第VI方程式を連続ハミルトン力学系として設定し,その相空間をリーマン球面上の安定放物型接続のモジュライ空間として代数幾何学的に構成した。更に安定放物型接続のモジュライ空間からモノドロミー表現のモジュライ空間へのリーマン・ヒルベルト対応を設定した。この対応によって前者のモジュライ空間上の極めて超越的,解析的な流れであるパンルヴェ流が,より扱い易い後者のモジュライ空間上の位相流であるモノドロミー保存流に翻訳された。これは力学系理論的には,パンルヴェ方程式という難しい力学系がリーマン・ヒルベルト対応という超越的な共役写像によって位相的な力学系に簡約化されたことを意味する。以上は岩崎克則と稲場道明(九大数理)齋藤政彦(神戸大理)の共同研究の結果である。この結果に関して2篇の論文を著した。またこの結果を京都大学数理解析研究所短期共同研究「複素領域における微分方程式の大域解析と漸近解析」(木村弘信主催)等の研究集会において発表した。 リーマン・ヒルベルト対応による簡約化により,パンルヴェ方程式のパンルヴェ性を力学系的に自然な形で証明し,非線形モノドロミーという離散力学系をパンルヴェ流のポアンカレ回帰写像として定式化した。非線形モノドロミーを三次曲面上の力学系として具体的に実現した論文を印刷公表した。 石井豊は関数方程式サマーセミナーにおいて複素力学系に関する連続講義を行い,複素力学系理論の現状やこの分野に特徴的な手法の解説を行った。岩崎克則はこの講演等で力学系理論の現況を学ぶと共に,その他エルゴード理論などの勉強を行った。
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