研究概要 |
昨年度に引き続き,パンルヴェ第VI方程式の力学系としての法則の確立に腐心した.すなわち,安定放物型接続のモジュライ空間上の力学系としてのパンルヴェ流の定式化,モノドロミー表現のジョルダン同値類のモジュライ空間上の力学系としての等モノドロミー流の定式化,両力学系をつなぐ共役写像としてのリーマン・ヒルベルト対応の設定と,その性質の解明,つなわち,リーマン・ヒルベルト対比の全射性,固有性,一般のパラメータに対する解析的同型性,特殊なパラメータに対する最小特異点解消写像としての同定などである. また,パンルヴェ力学系の対称性であるベックルント変換群の,リーマン・ヒルベルト対比に関する被覆変換群としての特徴づけ,相空間の正準座標系の構成と局所座標系のベックルント変換による貼り合わせを行った. さらに,パンルヴェ力学系のポアンカレ回帰写像である非線形モノドロミーの研究を行った.非線形モノドロミーは,昨年度の研究により,複素3次曲面上のある種のモジュラー群作用として記述できることが判明しているが,今年度はこの作用の有限軌道,有界軌道の分類へ向けての研究を開始した.特に,それぞれの存在領域の確定に向けて,次のような中間的結果を得た:有限軌道は3次曲面上の円分体の整数点のみに限定されること,有界軌道は3次曲面とある実立方体の交わりのみに限定的されること.更なる存在領域の絞り込みに向けて,現在,鋭意努力中である. 一方,パンルヴェ力学系の非線形モノドロミーとして得られる3次曲面上の離散力学系と,K3曲面上の離散力学系の類似に着目して,近年,C.T.McMullenやS.Cantatによって展開された後者の理論の修得を開始した.そのために,代表者と分担者が中心となって,第6回九州可積分系セミナー「K3曲面上の複素力学系」を組織した.両者の他,伊藤秀一氏(金沢大学)などの力学系の専門家が集って専門知識を交換した. 尚,研究代表者は,9月の日本数学学会秋季総合分科会において,多面体調和関数とパンルヴェ方程式の研究に関する業績により解析学賞を受賞した。そして3月の日本数学会年会において受賞特別講演を行った。
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