(1)^<187>OsのM-内部転換電子検出のための有感層の薄いAPD検出器製作 L殻電離によるNEETを観測しようとするとき、これまで使用してきた空乏層厚さ30*mのAPD素子では微弱な原子核脱励起放射線の観測を妨げる弾性散乱線やLX線に対する感度が高い。一方、NEET観測のためのM内部転換電子のエネルギーは10keV以下でありその検出には1*m以下の空乏層で十分である。そこで有感層を薄くした特殊な構造のAPDを使って即発放射線の感度を落としてオスミウム187のNEET(電子遷移:L_2^<-1*>M_3^<-1>と9.746-keV準位への核励起)を観測しようとAPD検出器を製作した。計画当初は3素子を一体化(φ3mm×3、1列)したAPD検出器2個を製作する予定だったが、予算と開発に要する時間の制約により、とりあえず電子線検出のために表面絶縁膜の薄いものだが増幅領域の厚さ(放射線入射側に約6*m)と形状(3mm径1素子)は既存品(浜松ホトニクスS8664タイプ)と同じAPD素子を特注し検出器として組み込んだ。 (2)^<187>Osの核共鳴観測実験 NEET観測のための実験をPF-AR NW2において2003年10月および2004年1月に実施した。オスミウム試料(^<187>Os 99.5%濃縮試料-金属粉末をアルミニウム箔に圧着して用いる)にX線ビームが照射され、バンチ間隔1.3μsの運転モードを利用して表面から放出される核共鳴散乱電子線(主にM-内部転換電子)の時間スペクトル測定をAPD検出器によって行った。^<187>Osの共鳴エネルギー(文献値:9.746keV)付近のエネルギー走査によって核共鳴現象の観測を行おうとしたが、10月の実験では(1)の素子を使ったところAPD表面の酸化膜部分に帯電した電荷の移動(放電)によりノイズ信号が生じたため、微弱な脱励起線信号をとらえることができなかった。1月の実験ではこれまでNEET実験で用いてきた30*m素子に変えて測定を行った。この素子ではAPD表面に帯電対策が採られているため、放電ノイズが抑えられ核共鳴成分のピークを見つけることができた。文献値より30eV高いエネルギーであった(論文準備中)。入射X線エネルギーをL_2吸収端近傍で走査してNEET確率の変化の様子も調べようとしたが、吸収端より高い入射X線エネルギーでは即発散乱線による出力パルスによって検出器が飽和し空乏層が厚い素子での測定は断念した。
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