本研究課題においては、He3冷凍機を用いた赤外分光用クライオスタットを製作し、温度1K以下での希土類強相関物質の分光研究を行うことを目標としていた。しかしながら、支給額が申請額よりかなり減額されており、当初計画の通りに研究を遂行することは困難となった。そこで、現有装置と同じ到達温度8Kを持つ測定システムの新規導入に対して、本研究経費を用いて補強およびより低い温度に到達するための工夫を行うことにした。具体的には閉サイクル式冷凍機および新規真空試料槽を購入し、様々な光学部品も補強した。これにより、将来さらに研究経費を獲得できた場合、He3冷凍機を組み込んだシステムにグレードアップ出来るような設計とした。上記装置の整備と並んで、現行装置による強相関電子系の分光研究を継続した。まず最近注目を集めているスクッテルダイト化合物の一つであるCeOs_4Sb_<12>に着目した。この物質は電気抵抗や磁化率などの測定から、金属的振る舞いとギャップを持つ半導体的振る舞いの両方が観測され、議論を呼んでいた。我々は光学測定によって、そのギャップ形成を初めて明確に捉えた。また以前より研究しているYb化合物で、f電子の局在の度合いは同程度でありながら、半導体と金属という全く異なる性質を示すYbB_<12>とYbAl_3という2種類の化合物に注目し、その電子状態を光学測定によって調べて比較した。その結果、両化合物は光学スペクトルで見る限りほぼ同じ電子状態を持っており、特にYbAl_3は金属であるにもかかわらず、電子状態密度に明確な擬ギャップを持ことを明らかにした。これにより、これら物質における半導体と金属の違いはフェルミ準位のごく近傍(数me V以下)で生じ、それ以上高エネルギーの電子状態は周期アンダーソンモデルで代表されるユニバーサルな機構で記述できることを明らかにした。
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