本研究の当初目標は、温度0.5Kで稼働し、かつ赤外分光に対応したヘリウム3冷却器を設計、製作すること、そしてこの冷却器を既設の真空試料槽、赤外干渉分光計と組み合わせることにより、温度1K以下で興味深い物性を示す強相関物質の赤外分光を行うことであった。これにより、従来は研究不可能であった、温度1K以下で強い電子相関がもたらすミクロ電子状態を初めて光学伝導度として観測し、強相関電子物性の研究に新たな展開を開くことを目的としていた。しかし支給額の減額のため当初予定を変更し、現有装置とほぼ同じ冷却器に基づき、測定システムや熱放射シールドを工夫することによって、現状装置よりも低温を目指すこととした。具体的には閉サイクル式冷凍機および新規真空試料槽を購入し、様々な光学部品も補強した。その結果、到達温度5.8Kを達成した。我々の従来装置の約8Kよりも低温に到達できるようになったため、7K前後で電子相転移を示す強相関スクッテルダイト化合物PrFe_4P_<12>の反射分光を行いつつある。また、この新装置の整備と並んで、従来装置による強相関電子系の分光研究も継続、発展させた。具体的には、最近注目を集めているスクッテルダイト化合物のうちCeやGdを含む化合物の光反射スペクトルの温度変化を詳しく測定した。また異なる混成強度を持つ多くのYb化合物のミクロな電子状態を、遠赤外、赤外光学伝導度の測定によって調べた。その結果、これら化合物における伝導電子とf電子の混成強度が、光スペクトルに現れる特徴的なピークのエネルギーにスケールすることを見いだした。また、温度変化及び光励起によってスピンクロスオーバーを示す鉄錯体物質についても、赤外および遠赤外透過スペクトルの測定を行った。なお、本研究で作成した装置は、後からHe3冷凍機を組み込める設計になっている。将来さらなる研究費を獲得し、より低温での赤外分光を実現していく予定である。
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