研究概要 |
生体の電磁場に対する影響に関する科学的なデータを蓄積する第一歩として,サケの精子から抽出したDNAの10GHzにおける電気伝導度を測定することに成功した。 この実験にあたり,以下の点に配慮した。すなわち,DNAの電気伝導度に対するこれまでの測定で結果が収束しないことの理由として,(1)DNAと電極とのオーミックコンタクト(2)DNA分子に対するディスオーダーの影響(3)DNA分子に対する湿度の影響などが挙げられ,問題になっていた。そこで,本研究では,(a)電極に関する一切の問題をなくするために,非接触の方法を選択し,(b)湿度や水の影響を極力排除するために,試料を真空中に封入し電気伝導度測定を行った。このため,われわれのグループが開発した,マイクロ波を用いて粉末の電気伝導度を求める手法を適用した。その結果,10GHzにおいて,明らかに水分子の緩和よりも一桁以上大きな電気伝導度を示すことがわかった。この結果を過去の異なる周波数での測定結果と比べてみることにより,電気伝導度の周波数依存性が,乱れた系が示すホッピング伝導でしばしば見られるべき乗則に従うことがわかった。このことは,虚数部(誘電率)についても成り立つことが推定された。すなわち,マイクロ波領域での誘電率はオーディオ周波数領域の誘電率(やはり実測した)とほとんど変わらず,このことは,電気伝導度の虚数部が周波数にほぼ比例することを示唆している。これらのことから,我々が観測した電気伝導度は,ヌクレオチド分子の重なり方向のパイ結合間のキャリヤのホッピングを見ている可能性があることを示唆している。今後,この伝導度が磁場によってどのように変化するかなどを調べる予定である。
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