最近のナノテクノロジーの発展に伴い"伝導素子としてのDNA"といった観点からの研究が飛躍的に発展している。しかしながら、DNA高配向導電性薄膜の研究はいまだ初期的段階であり、その作成方法や伝導機構は確立されていなかった。この原因のひとつとして、DNAが不純物イオンと結合しやすい性質を持っていることがあげられる。そのため高い伝導性をもつDNA高配向薄膜を作成するためには、まずDNAの伝導機構およびそのイオン伝導性を明らかにする必要がある。そこで、DNA薄膜のイオン伝導性の解明を行い、新しいDNA導電性薄膜の作成を試みた。 DNAにおけるイオン伝導性を明らかにするため、相対湿度を変化させてDNA膜に対して電気的測定およびNMR測定を行った。その結果、相対湿度20%以下の伝導性の小さい領域、相対湿度20%〜60%の伝導性が増加し緩やかに飽和する領域、さらに60%以上の伝導性が急速に増加する領域の3つの領域が観測されることがわかった。さらにNMR吸収線の測定結果からもこれら3つの領域を観測し、これらの3つの領域が相対湿度20%以下の伝導に寄与しない塩基とデオキシリボースの間で水素結合する低湿度領域、水分子のプロトンがホスホジエステル結合内の酸素イオン間で結合-再結合を繰り返し、プロトンのホッピング伝導が観測される相対湿度20%から60%の領域、さらにDNAの溶解に伴い伝導度が増加すると考えられる60%以上の高湿度領域となることを初めて明らかにした。さらに、アルカリ金属であるRbをDNA膜へとドーピングし、DNA膜を用いた新たなイオン伝導素子の作成を試みた結果、その伝導度がドーピング前に比べて10倍以上も増加することがわかった。このから、アルカリ金属をドーピングしたDNAは新たな導電素子となりうることを見出した。
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