最近、DNAの研究に対して、"伝導素子としてのDNA"といった観点からの研究が飛躍的に発展している。しかしながら、DNAの伝導機構についてはいまだ確立されていない。これはDNAが水分子や不純物イオンと結合しやすいといった性質をもっており、イオン伝導性と電子伝導性をうまく分離できないことに起因している。そこで本研究では、DNA導電性薄膜を作成し、DNAイオン伝導性の原因およびその伝導機構の解明を試み、さらに機能素子の創製を試みた。平成15年度の研究において、DNAのプロトン伝導性は加湿下において現れ、相対湿度に対して3つの領域(相対湿度17%以下で運動状態にあるプロトン数が少ない低電気伝導領域、17%から60%の運動状態にあるプロトン数が増加する中伝導領域、そして60%以上の運動状態にあるプロトン数が飽和する高伝導領域)が存在することがわかった。DNAを伝導素子として用いるためには、これらの領域における伝導メカニズムを解明し、その特性を知る必要がある。今年度はこの3つの領域における伝導機構の違いを誘電ロスの観点から新たに調べた。その結果、3つの相対湿度領域で誘電ロスの大きさが大きく異なることがわかった。特に60%以上の高湿度領域において、DNA内のリン酸基と水分子で構成されるWater bridgeにより生じる異常に大きな誘電ロスが存在することを見出し、高湿度領域ではWater bridgeの誘電ロスがDNAの電気特性を決定する上で重要な要素であることを初めて示唆した。また本年度はDNAのイオン伝導性(アルカリ金属イオンのドーピング効果)に対する実験結果をまとめ、論文雑誌に報告した。さらに機能素子の作成の1つとして、DNAを基盤とした燃料電池の作成を試みた。その結果、これが相対湿度17%から55%の中湿度領域で燃料電池となること、そのセル電圧は相対湿度55%において最適値をとることを初めて見出した。この研究結果は論文雑誌(Solid State Communications)に報告されている。
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