研究概要 |
臨界点近傍の流体において拡散過程よりも著しく速い熱緩和過程が発見されて以来、その機構の解明に注目が集まっている。この現象は、拡散とは異なる新しい熱輸送機構の存在を示したものである。理論的には、流体の熱膨脹係数が発散的に増大するため、過熱面近傍の流体が大きく膨張し、断熱音波として音速で熱が流体中を輸送されるモデルが提唱されている。 臨界点近傍の流体では熱膨張率、等温圧縮率、及び定圧比熱は臨界指数が1.20で強く発散する。その結果、定圧比熱は定積比熱よりも四桁以上も大きくなる。一方、試料容器は体積一定の条件なので、流体全体の静的な熱応答は臨界指数0.10で弱く発散する定積比熱で記述されることは、確かなことである。 今回、1μsレベルの高速で応答できる温度計を開発して温度を測定した。その結果、ヒーター近傍の流体の熱的応答が定積比熱では全く説明できないことが分かった。 極めて短い熱パルス(幅10μS)で超臨界流体を加熱した場合、その加熱される範囲(熱拡散層)は熱拡散係数で規定されるが、臨界点の近傍ではその値が減少(臨界減速)しているため熱拡散層の厚みは1μmより小さい。この微小領域の流体は、膨張率と等温圧縮率が発散しているため、局所的圧力の増加がほとんど無いまま膨張できる。そのため、ヒーター近傍の流体を1μsの時間スケールで見れば、流体の有効的な比熱は定積比熱ではなく、何桁も大きい定圧比熱に近くなることが期待できる。 今回の実験結果から、熱拡散層の高速応答の「有効比熱」として、定圧比熱の約60%の値が得られた。これはマクロな定積比熱よりも桁違いに大きい値である。これらの結果は物理学会で中間報告されたが、その一部は近くカナダで開催される「The International Symposium on Physical Sciences in Space,23-27 May 2004」で口頭発表されることが決定している。 今後、更に実験精度を高めて、論文にまとめる予定である。
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