原子や分子が凝縮して金属になるとき、どのような過程を経て金属になるのか、逆の見方をすれば、金属はどのように膨張・解離して絶縁体になるのか。この物質科学における最も基本的な問いに答えるために、我々は超臨界金属流体の研究を行ってきた。放射光の強力な高輝度X線を用いたX線回折実験から求められた局所構造の変化は、水銀が体積膨張するとき、原子間距離が増大するのではなく配位数が減少することが明らかになった。放射光を用いたX線小角散乱実験の結果から、流体水銀が体積膨張して金属から非金属へ徐々に転移していく際、20Å程度の相関距離をもつ弱いゆらぎが出現することを見いだした。さらに金属-非金属転移領域の流体水銀に対して高分解能非弾性X線散乱実験を行った結果、X線で観測されるミクロな音速が、超音波で観測される音速の3倍も早いことが明らかになった。転移の際にミクロな音速が早くなるのは、流体中のある原子が金属状態にあるか非金属状態にあるかで隣接原子間相互作用が異なることによると説明できる。このように全属-非金属転移に伴って弱いゆらぎが生成されていることがX線を用いた実験から明らかにされてきた。このようなゆらぎが電気伝導度などの物性値にどのように影響を及ぼしているのか大変興味深い。電気伝導度の時間ゆらぎなどが測定できれば、ミクロなゆらぎがマクロな物性にどのように反映しているのか、重要な知見を得ることができる。我々はX線散乱実験を行うため、サファイアを精密に加工して試料容器を製作してきた。この技術を応用して電気伝導度を精密に測定できる試料容器を開発しているところである。
|