最近、液体-液体1次相転移が注目を浴びている。原子や分子が凝縮して金属になる過程は、原子配置が電子状態と密接に関連し合うので、このような1次相転移と全く無縁ではないと考えられる。実際半世紀以上も前に、ノーベル賞物理者のランダウは、流体水銀の金属-非金属転移が1次相転移である可能性を指摘した。我々は、金属-非金属転移のメカニズムを探るためこれまでSpring-8の放射光を利用して超臨界流体水銀の構造研究を行ってきた。金属-非金属転移領域の流体水銀に対して高分解能非弾性X線散乱実験を行った結果、X線で観測されるミクロな音速が、超音波で観測される音速の3倍も早いことを見いだした。転移の際にミクロな音速が早くなるのは、流体中のある原子が金属状態にあるか非金属状態にあるかで隣接原子間相互作用が異なり、圧力のゆらぎが生成することによると説明できる。我々はこの成果をPhysical Review Lettersに公表した。さらに流体水銀を対象にX線小角散乱実験を行い、測定データを詳しく解析した。流体水銀が体積膨張して金属から非金属へ徐々に転移していく際、10〜20Å程度の相関距離をもつドメインが出現することが明らかになった。小角散乱実験により、金属-非金属転移の際、ミクロなドメインが出現すること見いだされたことで、非弾性X線散乱から推定した圧力のゆらぎとは、金属的ドメインと非金属転移的ドメインの間で圧力が不連続に変化することであると推定される。金属-非金属転移に伴い圧力が不連続に変化する理由は、伝導電子のフェルミ縮退圧があるかないかの効果であると考えられる。現在このような成果をまとめて、Physical Review Lettersに投稿中である。
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