研究概要 |
1.表層堆積物の堆積学的解析 南大洋太平洋セクター(タスマニア島〜南極大陸)から緯度トランセクトで採取された表層堆積物(0-1cm)を用いて,漂流岩屑(IRD)の定量,および,非生物源砕屑物の粒度分析を行った.南極大陸由来の氷山の分布範囲を復元する指標の一つであるIRDは,南極大陸近傍で多産するが,南緯60度付近以北の堆積物中にはほとんど存在しなかった.この結果は,帯磁率の緯度分布からも支持され,南極大陸に近いほど大陸起源の磁性鉱物が多量に供給されていることを意味している.従って,海氷(氷山由来)の分布の北限は,およそ南緯60度付近と見積もることができる.また,砕屑粒子の粒度分布は,南極大陸に近いほど粗粒側へシフトし,南緯60度付近のモード径が10ミクロン程度であるのに対し,南極大陸近傍(南緯65度付近)では60ミクロン程度となる.これらは砕屑粒子の運搬・堆積プロセスとして,高緯度域ほど氷による寄与が大きいことを示唆している.。 2.ピストンコアのIRD解析 南極大陸陸棚斜面から採取されたピストンコア(AMR-2PC)におけるIRD産出量は,間氷期で増加し,氷期で減少する傾向を示した.現在この地点は冬季には海氷に覆われるが,夏季にはそれらが融解し海が開いているため,IRDが多産している.従って,氷期におけるIRD減少は,AMR-2PC地点が夏季でも氷が溶けない「多年氷」に覆われていたことを示している. 3.バイオマーカー水素同位体比の予備測定 表層堆積物から抽出したC16脂肪酸,C18脂肪酸などの水素同位体比を予備的に測定した.その結果,南緯48〜54度の試料は-100‰〜-120‰の値を示したのに対し,南極大陸近傍の試料からは-200‰の値が得られた.このような軽い水素同位体比は,極めて軽い水素同位体比を有する南極氷床(氷山)からの融解水の影響を反映していると考えられる.
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