研究概要 |
1.昨年度に引き続き,南極大陸陸棚斜面下部から採取されたピストンコアにおけるIRD産出量,有機炭素量,オパール量などの分析を行った.また,別途実施されたコアの古地磁気強度曲線を用いた堆積年代推定に加え,コア上部で有機物の放射性炭素年代測定を行い,コアの年代モデルの精度を高めた.IRD量は,一般に間氷期で増加し,氷期で減少する傾向を示した.氷期におけるIRD減少は,AMR-2PC地点が夏季でも氷が溶けない多年氷に覆われていたことを示している.また,酸素同位体ステージ7〜8では,IRD量が急激に増大するイベントが繰り返し生じていることがわかった.ステージ7の温暖期は,南大洋太平洋区では極前線などが通常の温暖期よりも南下していた可能性が指摘されており,南極大陸縁辺部でもより温暖な環境となり氷床融解(崩壊)現象が頻繁に発生していた可能性がある. 2.海洋研究開発機構に滞在し,水素同位体比測定用の試料前処理法を習得するための予備実験を実施した.それらの手法を高知大学において実行できるよう環境整備を行うとともに,ガスクロマトグラフ/熱分解/質量分析計の分析条件等の検討を実施した.現時点では,ルーチン的に分析できるまでに至っていないが,予察的に分析した南大洋表層堆積物中のバイオマーカー水素同位体比は,-100〜-200‰の値を示した.その中でも低緯度側の試料は-100‰〜-120‰の値を示し,南極大陸近傍の試料からは-200‰の値が得られている.このように極域ほど軽い水素同位体比を示す傾向は,極めて軽い水素同位体比を有する南極氷床からの融解水の影響を反映していると考えられる.今後,さらに表層堆積物およびコアの分析を進めることによって,バイオマーカー水素同位体比のもつ古環境指標としての意味づけをより明確にすることができ,過去の氷床融解(崩壊)イベントの高解像度復元に結びつくと考えられる.
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