研究概要 |
彗星は太陽系の中で最も揮発性物質に富む始源的な天体である。8割は水、残り2割に一酸化炭素、二酸化炭素などが含まれ、その氷結温度は数十度Kとされている。観測される彗星の大部分は太陽熱の影響を受けてしまっており、当初の低温での揮発性物質がそのまま保存されているのかは疑問である。われわれは彗星の氷結温度を推定する全く新しい、かつ今までよりもずっと簡便な方法を開発し、その実用化に成功した。低温領域で、温度と明確な相関がある水素原子の核スピン状態の差:オルソ・パラ比を求めて、その値から彗星分子の氷結温度を求めようとするものである。水分子では、地球大気の水蒸気が邪魔となる欠点があったため、アンモニアに注目した。アンモニアは蒸発後、光解離により、NH2という分子となって、これが母分子のアンモニアの情報を保ちながら、オルソ、パラそれぞれの輝線を発する。これらの輝線を分離する高分散分光ができれば、そのオルソ・パラ比を知ることができ、元のアンモニアのオルソ・パラ比を推定できる。そこで、すばる望遠鏡の高分散分光器HDSの調整期間中に出現したリニア彗星(C/1999 S4)を観測し、その解析からオルソ・パラの輝線を分離し、モデル計算から氷結温度を28K±2Kと求めることに成功し、その結果をサイエンスに発表している("The Spin Temperature of NH3 in Comet C/1999S4(LINEAR)" Science,Vol.294,pp1089-1091(2001))。本研究では、この方法をさらにいくつかの彗星に適用することで、それぞれの彗星が原始太陽系星雲のどのあたりで誕生したか、という彗星の真の起源に迫る萌芽研究として推進しつつある。起源が異なるとされる長周期彗星(木星〜海王星領域起源)と短周期彗星(太陽系外縁部領域起源)とを比較するべく、平成15年度にはガン彗星などのいくつか短周期彗星を観測した。また平成16年度に明るくなるニート彗星(C/2001 Q4)やリニア彗星(C/2002 T7)を観測し、氷粒子の直接検出などに成功した(研究発表参照)。
|