研究概要 |
本研究ではAPD(Avalanche Photodiode)という半導体素子を用いて,今日まで検出素子の技術上の問題から正確な観測が困難だった1-100keVの中エネルギー電子をターゲットにした新型電子センサー開発を目指してきた.中エネルギー領域の電子とは熱的電子と非熱的電子の中間的な存在を示し,磁気圏物理において本質的な課題である加速・加熱過程や,そもそも観測データの少ない地球近傍の内部磁気圏を解明する上で重要な意味をもっている.これまで我々が行ってきた基礎実験の結果,APD素子は単体で電子のエネルギーを分解することができ,高い検出効率で中エネルギー電子を測定可能であることがわかっている. 本年度では,昨年度までに設計を終えていた,APD素子を検出部に用いた低エネルギー電子計測器を製作,較正し,JAXA宇宙科学研究本部の観測ロケットS310-35号機に搭載した.計測器の較正実験にはJAXA総合技術研究本部の真空チェンバー,およびJAXA宇宙科学研究本部の小型真空実験設備を使用し,電子ビームを照射した.またJAXA宇宙科学研究本部の振動試験設備と大型スペースチャンバーを利用して,ロケット搭載のための振動,衝撃試験及び電磁環境,光環境試験等の環境実験を行った.S-310-35号機は2004年の12月13日にノルウェーのアンドーヤロケット試験場より打ち上げられた.オーロラ電子計測器および計測用エレクトロニクスは正常に動作して,最も身近な中エネルギー電子の一つであるオーロラ降込み電子を,3-50keVのエネルギー領域にわたって計測することに成功した.これによって,新しい中エネルギー電子検出素子としてAPDを用いるための一つの目途が立てられたと言える.なお装置の較正結果やロケット実験に期待される成果については,地球惑星科学関連学会2004年合同大会,及び第116回地球電磁気・地球惑星圏学会において発表した.
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