研究概要 |
本年度,研究代表者らは,逆ミセル中に保持された微小な水滴を利用して水環境下での光化学反応を時間分解赤外分光法で観測することを試みた.' 研究代表者らは,この目的のためにヘプタン溶液中のAOT(ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム)逆ミセル内に形成した微小水の中にピラニン(8-ピドロキシ-1,3,6-ピレンスルホン酸)を可溶化したものを試料として用いた.ヘプタンに対する水の濃度は1mol/dm^<-3>であった.この試料を光励起して,引き続いて起こる変化を分散型時間分解赤外分光計で測定した.通常の水溶液中での研究から,ピラニンを光励起するとpKa値が7.5から0.4-1.4に減少することが知られている.AOT逆ミセル中に形成した微小水の中でも,光励起にともなってプロトンの解離が起こると期待される. 測定の結果,OH伸縮振動領域に顕著な変化が観測された.光励起直後から,3640cm^<-1>付近に幅の狭い吸収帯が現れ,それと同時に3400cm^<-1>付近で幅の広い褪色が現れた.この変化は,光励起後に水素結合を有しないOH結合の数が増加し,同時に水素結合をしたOH基の数が減少したことを示唆している.今回観測されたスペクトル変化は,ピラニンの光励起によりプロトンが解離し,これが逆ミセル中の微小水の構造あるいは水素結合ネットワークに影響を与えた結果を反映していると考える. 従来の時間分解赤外分光法では,特にOH伸縮振動領域で水溶液試料の測定を行うことができなかった.これはバルクの水による赤外吸収が強いためである.本研究では,逆ミセル中に形成した微小水を利用することによってバルクの構成要素を水からヘプタンに置き換え,水溶性試料の時間分解赤外分光測定を可能にできることを示すことができた.
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