研究概要 |
これまでに我々は、鉄-ケイ素-リンからなる三員環錯体Cp^*(CO)Fe{κ^2(Si, P)-Me_2SiPPh_2}(1)の合成に成功している。本研究では、単離した1と様々な極性分子との反応について検討した。 錯体1は分極した単結合E-Hを有する、水、アルコール、チオール、ヒドロホスフィン、第2級アミンおよびアニリンと室温において瞬時に反応して、ケイ素-リン結合にE-H結合が1,2-付加した錯体Cp^*(CO)FeSiMe_2ER_n(PPh_2H)(ER_n=OH, OMe, S^pTol, PPh_2,NEt_2,NPhH)をほぼ定量的に与えた。これらの錯体の構造は、単結晶X線構造解析により明らかにした。 錯体1と分極したCO二重結合を有するケトン類との反応についても検討した。この反応では、CO二重結合がケイ素-リン結合に挿入した錯体Cp^*(CO)Fe{κ^2(Si, P)-Me_2SiOCR_2PPh_2}(R_2=Me_2,Ph_2,MePh, Me(CH=CH_2))が得られた。三員環錯体1の鉄中心はキラルであることから、非対称なケトンであるアセトフェノンのケイ素-リン結合への挿入では、ジアステレオマーの関係にある2つの異性体が生成する可能性があるが、実際には1つの異性体のみが得られた。今後、さらに適当な基質との反応を行なうことで、前例のない遷移金属および2つの典型元素からなる反応場での不斉合成への応用が期待される。また、錯体1は芳香族性を有するピリジン環の活性化にも有効であることがわかった。錯体1のN, N-ジメチルアミノピリジンとの反応では、ケイ素-リン結合にピリジン環内の窒素-炭素結合が挿入した錯体が室温において瞬時に定量的に得られた。本反応は、遷移金属に結合した2つの典型元素間で芳香族化合物を活性化した極めて珍しい例である。
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