スイッチ機能をもつ分子の開発は、次世代デバイスの概念構築、ならびに実現の重要な鍵を握っている。本研究は、光あるいは熱を刺激剤とすると、複核構造をもつ錯体の金属-金属結合が活性化され、ハプトトロピック転位や組み換え反応をおこすという発見をもとに、金属-金属結合の活性化による色および磁性の可逆的変化を示す金属錯体の開発とその機構を解明することにより、金属の特性を活用した新しい分子スイッチの概念と、その設計指針を確立することを目的としている。本年度の成果として、熱および光刺激により可逆的な構造変化をおこすアセナフチレン類を配位子とする鉄複核錯体を設計、合成し、熱異性化反応の解析(反応速度論、平衡定数、熱力学パラメーターの決定)、光異性化過程の解析(波長依存性、量子収率)の決定を通じて、溶液および固体中での光あるいは熱スイッチとしての機能を明らかにした。とくに固体状態での可逆性、繰り返し応答性のある光・熱スイッチ系を達成した。さらにその知見をチタンとルテニウム、モリブデン、タングステン、コバルト金属を含む複核構造をもつ錯体を検討した。とくに、チタン(III)アルコキシド-コバルトジカルボニル錯体系における熱的な金属組み換え反応においては、反応がチタンとコバルトの組み替えだけでなく、コバルトの核数変化を伴う反応が組み込めるという新しい知見を得たのみならず、チタン錯体の構造によりコバルトの核数制御が可能であることを明らかにした。以上のチタン-コバルト系の反応の特徴、機構を詳細に検討することにより、ヘテロバイメタリック系分子スイッチ合成の基礎的な知見を得た。
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