研究概要 |
脂質二分子膜は,構成脂質分子がもつ固有の機能を越えたいわゆる分子集合型の超分子機能体の一つであり,様々な応用分野が期待されている。しかしながら,分子集合体の宿命である化学的・物理的脆弱さも併せ持っており,この問題が応用展開を拒んでいると言ってよい。すなわち,脂質二分子膜の機能をいかに固定化するかが重要な課題となっている。本研究は,脂質二分子膜の特性を安定化し,これを無機担体に固定化するための新しい手法を開発することを目的としている。この目的を達成するために、本研究では二通りのアプローチを提案している。一つは,重合性有機溶媒中で脂質二分子膜類似の機能を有する分子集合体の形成を行い,溶媒を重合することによって分子集合状態を固定化する方法であり,もう一つは,重合性を有する脂質を作製し,これをテロメリゼーション法によってオリゴマー化したのちに無機薄膜上に固定化する方法である。本年度は,前者について主に検討し,下記のような成果を得た。ピレニル基をプローブとする脂溶性L-グルタミン酸誘導体を作製し,これがスチレン,ジビニルベンゼン,メチルアクリレート,メチルメタクリレート中で分子配向体を形成することを確認した。透過型電子顕微鏡写真により,L-グルタミン酸誘導体はナノサイズの直径を持つ繊維状会合体として上記のモノマー中で分散しており,配向体に特有のキラリティを発現することを明らかにした。しかしながら,溶液を加熱すると誘起キラリティは消失し,L-グルタミン酸誘導体固有のキラリティに変化した。そこで,溶液を光増感剤存在下で重合し,固体フィルム化させると,配向体特有のキラリティが残存するだけでなく,高温下においてもキラリティが減少しないことを確認した。これにより,誘起キラリティを固定化した固体フィルムの作製が可能となった。同様な現象は,架橋剤モノマーの存在下でも確認されており,これによって耐有機溶剤性の高い固体フィルムの作製も可能となった。
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