本研究では、電子ドナー性を有するカルバゾール置換基:Rを側鎖に有するアセチレンH-C≡C-RをRh錯体触媒の存在下、立体規則的に重合し、シス体の置換ポリアセチレンを選択的に合成した。このポリマー中にはシス体ラジカルが含まれ、そのスピンは側鎖カルバゾール基の窒素上まで非局在化し、その窒素に付いているメチレンプロトンまでそのスピン密度が主鎖から行っていることを発見した。そのポリマーを光照射した場合、生成したπ電子ラジカル(=ソリトン)へ、側鎖のカルバゾール基から電子移動が起こるため、カルバゾール側鎖に磁気モーメントを有するイオンラジカル(ラジカルカチオン:ポーラロン)が発生することも確認した。従って、本研究によって、カルバゾールの置換ポリアセチレンに安定化されているラジカル(磁気モーメントを有する)を使って、有機高分子磁気ディスクの作成することが可能になった。シス体含有量が最も多いポリマー試料とそれを光照射して得られたπ-スッタキング構造を取るトランス体の試料の電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを測定し、確かに光照射後は、ラジカルカチオンに相当するスペクトルが観測されることを確認できた。 光照射後のポリマー試料が磁気材料として強磁性、反磁性、常磁性かどうかを調べるため、現有の超伝導量子干渉磁束計(SQUID)を使って、広い温度範囲と磁場強度で詳しく調べた。その結果、60Kと120Kで磁気モーメントの極大値:カスプが現れることを発見した。このカスプの磁気モーメントは時間と共に、自然に増大してくる、即ち<時間記憶>と言う大変興味深い現象を示すため、確かに高分子の新規磁気材料を作ることが出来た。
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