N末端にジスルフィド基、C末端にエチルカルバゾリルアラニンエチルエステルを有するロイシンとαアミノイソ酪酸との交互配列16量体ペプチド(ECz-COOEt)と、末端のエチルエステルを加水分解したECz-COOHをそれぞれ、液相法により合成した。それぞれのペプチドをエタノールに溶かし、その溶液に金基板を浸漬することによって、自己組織化膜を調製した。赤外反射吸収スペクトル測定の結果、いずれも膜も垂直に近い分子配向であることがわかった。電子ドナー水溶液中に各修飾基板を浸漬し、エチルカルバゾリル基を光励起したところ、アノード電流が発生した。系のpHを変化させて光電流を測定したところ、ECz-COOEt膜では光電流のpH依存性は小さかったのに対して、ECz-COOH膜では、系のpHが高くなるにつれ光電流が顕著に増加した。これは、末端カルボシキル基の酸解離により生じるカルボキシレートの負の電荷により、C末端からN末端に向かうペプチドのダイポールモーメントが強められ、電子ドナーから金表面への光電子移動が加速されたためと考えられる。つまり、系のpHによりペプチドのダイポールモーメントの大きさを制御し、発生する電流の大きさを制御できることがわかった。そこで、電子ドナーと電子アクセプター存在下でpHを3と10の間で繰り返し変化させながら光電流発生を調べたところ、いずれの膜もpH=3でカソード電流を発生したが、pH=10で、ECz-COOEt膜ではわずかなアノード電流しか発生しなかった。それに対してダイポールモーメントの強められているECz-COOH膜では強いアノード電流が発生した。つまり、ECz-COOH膜を用いることにより、系のpH変化による光電流方向を可逆的にスイッチングできることが示された。
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