研究概要 |
本研究では,キラルなビナフチル骨格を有するリン酸イオンを対イオンとする2本の長鎖アルキル基をもつアンモニウム錯体を合成した。合成したアンモニウム錯体は,DSC測定により昇温過程において10℃と62℃付近に,冷却過程では49℃と-7℃にそれぞれ2つの相転移を示すことがわかった。高温側の相転移温度以上では,等方状態であることを確認した。一方,2つのピーク間の温度範囲では,流動性と光学的異方性が観察され,室温以下の低温において液晶相を発現することが明らかとなった。次に,液晶相構造を調べるため偏光顕微鏡観察を行った。その結果,ドメイン間に十字の欠陥がある特徴的なテクスチャーを示した。さらに,液晶相構造をより詳細に検討するため,X線回折測定を行った結果,室温(液晶状態)で低角側に層構造(周期構造)の存在を示す強い反射ピークを呈した。しかし,この錯体の液晶相は,一般的なイオン性液晶が示すスメクチック相と仮定した場合,層間隔が極端に小さい。回折パターンを詳細に解析した結果,2次元レクタンギュラー構造をもつカラムナー相であることが明らかとなった。このカラム構造は,キラルなビナフチル基がπスタッキング相互作用によって1次元的に積み重なることによって発現すると推察できる。ここで興味深いのは,カラムがらせん構造をとっているか否かである。そこで,パッキング様式を評価するため旋光度測定を行った。溶液サンプルでは,比旋光度は[α]_D^<20>=-232°(c=0.44,メタノール)であった。一方,液晶状態の室温で測定したところ,比旋光度は[α]_D^<20>=-1333°と非常に大きな値を示し,溶液系と比較して旋光性が顕著に増大することがわかった。これらの結果から,カラム内においてビナフチル基がらせん状にスタッキングしている可能性が示唆される。
|