色素増感太陽電池に用いられるTiO_2などのn型半導体光アノードについて、用いられる色素は硬いLewis塩基として振舞うカルボキシル基やスルホン酸基をアンカー基として有しており、これらが固いLewis酸点として振舞うTi(IV)サイトに安定な結合を形成することが重要と考えられる。固体型色素増感太陽電池のホール輸送材料としても用いられるp-CuSCNと色素分子間の結合形成には典型的軟らかいLewis酸点であるCu(I)サイトに対して、-NCSなどの軟らかいLewis塩基をアンカー基として含む色素が有効との考えから、Ru(dcbpy)_2(NCS)_2やFluorescein isothiocyanateなどの色素を共存させたCu(ClO_4)_2とLiSCN混合水溶液からの複合体電析を試みたところ、これらの色素で着色されたCuSCN/色素複合体薄膜が得られた。色素分子の吸着に伴い、膜の表面形態や結晶配向性が変化した。 さらにNCSを色素で置換するのではなく、Cu(I)をカチオン性色素で置換することによる複合体形成を試みた。ローダミンやオキサジンなどの4級アンモニウム基を有する色素を共存させた溶液からの電析により、これらの色素で濃厚に着色された複合体薄膜を得る事に成功し、このアプローチの正しさも確認された。得られた複合体膜中の色素の蛍光は完全に消光されることが分かり、励起状態からのホール注入が示唆された。 溶存酸素やメチルビオロゲンを電子アクセプタとして含む電解液中での光電気化学測定において、これらの複合体薄膜は色素分子の増感作用に基づく光カソード機能を示し、上述の考え方が光カソード系の構築に有効であることが分かったが、これらアクセプタの溶解度が限られるために光電流は最大で0.4mAcm^<-2>程度と小さく、起電力も100mV程度なため、光アノード系と同様な湿式電池の構成は困難であった。今後n型半導体との積層を試み、固体型電池としての評価を進めたい。
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