細胞が生命の最小単位となりうる理由の一つは、細胞膜の非対称性にあることは良く知られている。本研究では、膜の外側と内側に異なる脂質が非対称に分布し、かつサイズが大きく均一にそろった脂質二分子膜ベシクル(巨大リポソーム)を作製するまったく新しい手法の開発を目指した。今年度は以下の成果を得ている。 1.アニオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム存在下に、テトラエトキシシランの加水分解を行って、100nmから1μmの範囲で粒径が種々異なる単分散シリカ粒子を調製した。単分散粒子の生成は、透過型ならびに走査型電子顕微鏡観察、動的光散乱法により確認した。このシリカ粒子表面に親和性をもつリポソーム形成脂質として、頭部にトリエトキシシリル基をもつ二本鎖型脂質を種々合成した。 2.単分散シリカ粒子を鋳型にして、この表面に非対称二分子膜構造を形成させることに成功した。すなわち、まず、シリカ粒子を有機溶媒中に分散し、これにトリエトキシシリル基をもつ二本鎖型脂質を加えて加熱することにより、シロキサン結合を介して脂質の単分子膜層を表面にもつシリカ粒子を得た。次に、この有機-無機複合体に、リポソーム形成能をもっ種々の両親媒性脂質を被覆することで、非対称二分子膜構造をシリカ粒子の表面に形成した。構造体のキャラクタリゼーションは、電子顕微鏡観察、動的光散乱法、ゼータ電位法などにより行った。現在、バイオミネラリゼーションの分野で用いられている有機-無機複合体の無機骨格溶解法を参考にして、鋳型であるシリカ構造を除いて、非対称リポソームを得る条件を種々検討している。
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