本研究においては、光触媒活性酸化チタンの活性の向上を、光学干渉により紫外光の利用効率を増加させることにより達成することを目標としている。 上記の目標を達成するにあたり、光学多層膜の成膜手段としてスパッタ法を採用し、酸素スパッタガス圧力を4Pa近傍とし、ガラス基板を250℃とする条件で高い光触媒活性を持つ酸化チタンを成膜しうることを見いだした。さらに、本研究において成膜した限りにおいては酸化チタンの光触媒活性は、X線回折的結晶性や嵩密度とは相関を持たないが、暗所電気導電率と相関を持つことがわかった。さらに、酸化チタンの暗所導電性は酸素欠損により生じること、および、酸化チタンの紫外光領域における消衰係数がほぼ等しいことから、酸化チタンは紫外光吸収により電子-ホール対をほぼ同数生成するが、原子レベルの欠陥が電子-ホールの再結合中心として働き、欠陥密度の違いが酸化チタンの光触媒活性を左右していることが示唆された。これらの結果は、光学干渉により酸化チタンにおける紫外光閉じ込めをおこない、紫外光の吸収量を増加させることで光触媒活性を向上することが可能であることを示した。 光閉じ込めによる光触媒活性の向上を実験的に確認するために、光学多層膜としてアルミ反射鏡を選択し、1.可視光反射率が高く、2.可視光反射スペクトルが平坦で反射鏡としての性能を満足し、かつ、3.紫外光領域でのみ低い反射率を持ち、これにより、4.酸化チタンによる紫外光吸収率が増加しているように、光学設計をおこなった。得られた膜構成は、60nm TiO_2 / 25nm SiO_2 / 80nm Al / Glassである。 設計膜構成に基づき、アルミ反射鏡を作製したところ、ほぼ設計通りの光学特性が得られた。ここで、紫外光源としてブラックライトを用いた際の酸化チタンによる吸収フォトン数は、酸化チタン単膜に比べて1.7倍に増加していることが算出された。また、イソプロピルアルコールの光触媒分解速度は1.3倍に向上していることが確認された。さらに、水接触角の逆数の時間変化により評価した親水化速度は、酸化チタン単膜の3.3倍に改善されていることが確認された。
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