本研究の目的は、水中での化学反応実施に向けた新しい方法論の開拓である。今までの水中有機反応では、もともと水にある程度溶解性のある分子に対して行うものが多い。また、親水基をつけて水への溶解度を高めている場合も多いが、これまで報告されている親水基は除去や官能基変換をすることが困難なものばかりである。すなわち、一旦導入した親水基は反応生成物にまで付いてまわるという本質的な欠点を有している。そこで本研究においては有機化合物への導入およびそこからの除去が容易にできる「着脱可能な親水基」を開発し、それを用いた水中での有機合成反応、特に炭素-炭素結合生成反応についての研究を行った。 本年度は、予備的な研究で有望であった着脱可能な親水基として2-ピリジルシリル基に着目して研究を行った。炭素-炭素結合形成反応として光二量化反応を選び、水中での2-ピリジルシリル置換スチルベン誘導体の光二量化反応について検討した。光照射による生成物は目的の二量化体の他にスチルベンのシス異性化体が得られ、その生成比は溶媒、濃度、スチルベンの置換基に大きく依存することが分かった。目的の二量化体は希釈水溶液を用いたときに選択的に生成し、水中ではシス体への異性化が抑制されていることが分かった。これは水中における2-ピリジルシリル置換スチルベンの局所的な濃度効果が一因であると考えられる。また得られた二量化体に対するクロスカップリング反応による2-PyMe_2Si基の変換を行ったところ、ケイ素のついていた位置に芳香環が効率よく導入できた。本研究成果により2-ピリジルシリル基の着脱可能な親水基としての有用性が明らかとなった。 また、超臨界水中の有機反応についても予備的な検討を開始した。
|