本研究では、心臓の拍動のように一定条件下で自発的な周期的リズム運動を行う新しい「自励振動ゲル」を開発した。生体の代謝反応(TCA回路)の化学モデルにもなっている、循環する反応回路を持つベローソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)をゲル内で引き起こし、その化学エネルギーを力学エネルギーに転換する分子設計を行うことによりゲルの周期的な膨潤収縮振動を生み出すことに成功した。本研究では、とくに情報伝達素子への応用という立場から、ゲル内に生じる化学反応波の伝播の解析とそれを利用した材料システム構築に関する基礎的検討を行った。ゲルが化学反応波の波長以上のサイズになると、反応と拡散のカップリングによって化学反応波が生まれる。酸化状態のときゲルは膨潤するので、波の伝播と共に局所的な膨潤領域が一定速度でゲル中を伝播することになる。すなわちゲル組織の中で蠕動運動のような膨潤・収縮振動が生じる。近年、コロイド結晶を鋳型にして作成した多孔質ゲルが膨潤度に応じた構造色を発現する性質を名大・竹岡らが明らかにしているが、この合成手法を自励振動ゲルに適用し、蠕動運動の可視化に成功した。またこのようなゲルの自律的運動を応用したデバイスとして、表面に微細な突起構造を有するゲルアレイ(人工繊毛)が作成された。さらに界面活性剤を用いた乳化重合法により、100nmオーダーサイズのナノゲル微粒子を作成し、ナノオーダーでの膨潤収縮振動を起こすことに成功した。動的光散乱装置を用いて粒径変化の振動を測定し、ゲル微粒子と従来のバルクゲルを比較した。これら結果より、マイクロ・ナノシステムの環境下において自励振動ゲルの膨潤挙動がどのように影響を受けるかを検討し、ゲル微粒子の最適な適用条件を探った。またこれらのゲル微粒子を基板上に配列させ、化学反応波に伴う膨潤収縮変化を起こすことにより表面に添加した物質を輸送する機能性表面(コンベア型搬送システム)の設計を行った。
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