研究概要 |
時間分解赤外分光法を用いると、光触媒中の電子を観測し、電子・正孔再結合過程や吸着分子への電荷移動過程を調べることができる。我々は、水分解の活性が高いタンタル酸ナトリウム触媒中のマイクロ秒領域でのキャリアーの挙動と定常反応活性には高い相関があることを報告した。本研究では、本手法を用いて9つの酸化チタン参照触媒の光励起ダイナミクスの観測を行った。 酸化チタンに紫外パルスを照射すると、赤外域に光励起電子のブロードな過渡吸収が観測される。この過渡吸収の減衰過程を調べることで光励起電子の再結合過程や反応過程を調べることができる。真空中での減衰速度は再結合速度を反映し、残存する電子の数が多いほど、反応に使える電子の数は多いことになる。ここで、気相に酸素を導入すると、電子が酸素に消費されるため、電子の減衰が加速される。この減少量は反応に消費された電子数を反映し、どれだけ減ったかという減少率は、再結合を逃れて残存した電子の反応活性を示す指標になる。次に、気相にメタノールを導入すると、正孔が消費されて再結合が抑制され、電子数が増加するが、この増加量は反応で消費された正孔数を反映する。そして、電子の増加した割合は、再結合を逃れて残存した正孔の反応活性を反映する。これらの仮定に基づいて参照触媒TIO4,6-13の反応ガス導入による電子の変化量と変化率を計算した。各触媒における光励起電子の赤外吸光係数が同じだと仮定した場合、これらの電子の変化量は大きければ大きいほど、酸化反応や還元反応の活性が高いことになる。TIO8と9は酸素導入による電子の減少量が大きいため、高い還元活性を有しており、逆にTIO8と10はメタノール導入による電子の増加量が多いため、高い酸化活性を有していることが推察される。これらの結果と触媒の表面積を比較すると、活性の高い触媒はいずれも表面積が広いことが分かった。
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