研究概要 |
天然ゴム製品によるアレルギー事故が各国で報告されている(日本でも毎年10数件の死亡事故が発生している)。植物が自らを保護するために持っている生体防御タンパク質がアレルギーの主因だと考えられている。そこでチチタケ属(Lactarius属)キノコに注目し、チチタケ子実体からゴム(以下キノコゴムと呼ぶ)を抽出した。このゴムはゴムの木から得られたゴムの10分の1の分子量(4X10^4)であり、通常の使用に耐えない。これに架橋剤を混合し、放射線照射して橋かけを導入することにより通常のゴム並みの性能が得られた。キノコの子実体重量の約7%のゴムが得られることが分かった。キノコゴムの元素分析結果から窒素が全く検出されないことからタンパク質が全く含まれていないことが分かった。 チチタケは夏の一時期だけしか採取できないため、Lactarius chrysorrheus(LC)菌糸体を培養し、これからゴムを得る方法も検討している。LC菌糸体からφゴムの収率は約2%で数平均分子量も1500と子実体と比べて収率、分子量とも低くなってしまった。しかし、今後、キノコの種類を変えて菌糸体の培養を行うことや、炭素源や窒素源などの培地組成を変化させたり、温度や培養時間などを変化させることにより高収率、高分子量のゴムが得られることが期待される。また、元素分析の結果、子実体及び菌糸体どちらのキノコゴムにも窒素が検出されず、タンパク質が含まれないことが確認された。キノコゴムも全てシス型ポリイソプレンからできていることが分かり、物性改善ができれば、高純度、高規則性の人体及び環境に優しい医療材料が提供できると期待される。この他、ホンシメジなどの菌糸体培養で得られるゲル状のβ-1,3グルカンを橋かけ処理を施すことにより、抗腫瘍効果のあるガーゼなどの医療材料も開発できると思われる。
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