研究概要 |
キノコのベニタケ科チチタケ属(Lactarius属)のチチタケ子実体を乾燥後、粉砕し、これをn-ヘプタンで抽出し、メタノールに再沈殿させることによって天然ゴムを得た。これをトルエンでさらに精製後、元素分析で窒素が全く含まれないことを確認した。これは天然ゴムアレルギーの主因であるタンパク質を全く含まないことを意味する。キノコからゴムの収率は約6.6%であった(これは完全なシス1,4-ポリイソプレンであり、キノコゴムと呼ぶこととする)。天然ゴムの数平均分子量は20万以上であるが、キノコゴムのそれは4万前後であり、このままでは液体ガム状で成形品にならない。これを改善するため、対照試料として化学合成のシス、トランス混合の1,4-ポリイソプレンオリゴマー(分子量:約1万)を用い、これに数種類の放射線架橋剤を混合し高分子量化を行った。最も有効な架橋剤としてはTrimethylolpropane triacrylate(TMPTA)と1,6-Hexanediol diacrylate(HDDA)であることが分かった。従ってキノコゴムにHDDAを5phr混合して100〜200kGy照射するとかなり耐久性のあるゴム体が得られることが分かった。 一方、菌糸体Lactarius chrysorrheus(L.C.)を入手し、これの液体培地中での培養も比較のために行った。培養日数は28日であった。L.C.菌糸体からのゴムは、収率は約2%、数平均分子量は1500前後となり、チチタケ子実体からのゴム(収率:66%,分子量:40,000)と比べて収率、分子量とも低くなってしまった。これにTMPTAやHDDAを5phr混合してγ-線照射するとある程度の固さを持った固形物が得られた。このL.C.ゴムはNMR測定の結果、シス型ポリイソプレンがほとんどでトランス型ポリイソプレンは含まれないことが分かった。元素分析の結果、タンパク質も全く含まれないことが分かった。今後、キノコの種類をかえて菌糸体の培養を行ったり、炭素源や窒素源などの培地組成を変化させたり、温度や時間を変化させることによって、高収率、高分子量の天然ゴムが得られることが期待される。
|