研究課題/領域番号 |
15656006
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
古曵 重美 九州工業大学, 工学部, 教授 (00261248)
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研究分担者 |
松嶋 茂憲 北九州工業高等専門学校, 助教授 (80229476)
出口 博之 九州工業大学, 工学部, 教授 (30192206)
奥 正興 東北大学, 金属材料研究所, 助教授 (90005968)
下岡 弘和 九州工業大学, 工学部, 助手 (50253555)
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キーワード | 酸化インジウム / クラスターグラス |
研究概要 |
我々の目的は、透明電極材料として実用化されているITO (Sn doped In_2O_3)に磁性を付与し、ITOの透光性、導電性、安定性に加え、更に磁性をも具備する新規スピントロニクス材料Magnetic ITO (MITO)を開発することである。今年度はその第一歩として、In_2O_3のIn^<3+>の一部を遷移金属元素の中で最大の磁気モーメントを持ち得るFe^<3+>(S=5/2)で置換し、透明なIn_2O_3に磁気的特性を付与することを試みた。 FeドープIn_2O_3はIn_2O_3結晶構造に帰属可能なX線回折ピークのみを示したが、その格子定数はノンドープIn_2O_3のそれに比べ小さくなっていた。XPS測定よりFeは3価で存在していることがわかっており、格子点のIn^<3+>(0.94Å)をFe^<3+> (low spin:0.69Å、high spin:0.79Å)が置換したと考えると辻褄が合う。FeドープIn_2O_3の光吸収スペクトルは、ノンドープのそれに2.3eV付近の光吸収が乗畳したものとなった。DV-Xα法を用いたFeドープIn_2O_3の電子構造を計算すると、Op-In s,d軌道の混成により価電子帯と伝導帯が形成され、そのエネルギーギャップ内にFe3d軌道起源の電子状態密度(DOS)が生成する。つまり、この光吸収はドープしたFeによるものである。また、Fe3dバンド電子は非対称形のスピンDOSを与え、E_F付近でスピン偏極が生じる。そのため、強い磁気的相互作用の発現が期待できる。FeドープIn_2O_3の直流磁化率温度依存性では、室温付近からFiled-cooled (FC)とZero-filed-cooled (ZFC)の磁化率に差異が観測された。FC磁化率は温度低下とともに増大し、ZFC磁化率はFCのそれと段々と離れて低下する。このFCとZFCの磁化率分離挙動は、クラスター・グラスの挙動に酷似しており、In_2O_3格子中のIn^<3+>を置換したFe^<3+>が局所的なスピンクラスターを形成しているものと考えられる。また、FCとZFCの磁化率の両方で、30Kのカスプも観測されている。 今年度は、In_2O_3ベースのスピントロニクス材料開発の第一歩に成功した。今後、ITOのSn^<4+>から供給される伝導電子を介した強磁性への転移実現に向けて研究を進めていく予定である。
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