従来、反強磁性体の磁気構造の研究は、中性子回折によるものが中心で、一部X線回折を用いても行われていた。しかし、微小な試料の局所的な情報を得るためには、電子顕微鏡が優れていることは言うを待たない。反強磁性体の電子回折では、磁性による電子の偏向のため、回折点の分離が起こる可能性がある。そこで、電子顕微鏡による反強磁性体研究の可能性を探るのが本課題の目的である。 酸化ニッケル(NiO)の単結晶は、NaCl型の面心立方格子を組み、同一の(111)網面内の磁性原子のスピンは互いに平行になっている(容易面)。いくつかの数値を仮定する必要はあるが、[110]方向から見た酸化ニッケルの1つの{111}網面上の磁束密度は約0.2Tと推測される。従って、厚さ100nmの試料では、200keVの電子線が14x10^<-5>rad偏向されるものと予想できる。また、磁性原子が隣接する面毎に反転したスピンをもっているため、二倍周期の磁気単位胞を持つといえ、それに対応した回折が起こる可能性もある。 本研究ではまずバルクのNiO単結晶から断面が(110)になるように薄片を切りだし、イオン研磨法により電子顕微鏡用薄膜試料を作製した。この試料を平行度1x10^<-6>rad以下の高干渉性電子線による制限視野電子回折により観察した。しかし現在までに明瞭な回折斑点の分離、あるいは、倍周期を示すような特別な回折斑点は見つかっていない。その理由としては以下のようなことが考えられる。 (1){111}面には4通りあるが、ある<111>方向から観察されるのは、その内の2面だけである。従って、元々観察方向に、スピンが揃っていなかったのかもしれない。 (2)試料を薄片化した時に、バルクの時とスピンの配列が変わったか、試料表面に対し、垂直方向に向いてしまったのかもしれない。 そこで、次年度以降、試料内のスピンを観察可能な{111}面内で、試料表面に平行になるように、強制的に配列させることを考えている。
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