研究概要 |
従来,反強磁性体の磁気構造の研究は,中性子回折によるものが中心で,一部X線回折を用いても行われていた。しかし,微小な試料の局所的な情報を得るためには,電子顕微鏡が優れていることは言うを待たない。反強磁性体の電子回折では,磁性による電子の偏向のため,回折点の分離が起こる可能性がある。そこで,電子顕微鏡による反強磁性体研究の可能性を探るのが本課題の目的である。 前年度はバルクのNiO単結晶から断面が(110)になるように薄片を切りだし,イオン研磨法により電子顕微鏡用薄膜試料を作製した。この試料を平行度1x10^6rad以下の高干渉性電子線による制限視野電子回折により観察したが明瞭な回折斑点の分離,あるいは,倍周期を示すような特別な回折斑点は見つかっていない。その理由として,観察している(111)面で必ずしもスピンが反平行に並んでいないことが考えられた。そこで,近年巨大磁気効果(GMR)を示すとして注目されている金属磁性多層膜が,ある条件では,隣り合う各強磁性層が反平行の磁化を持つことに注目し,そのような多層膜の作製を目指した。現在,磁化測定では反平行に磁化が並んでいると思われる試料Si/SiO_2/Fe5nm(Co1.5nm/Cu0.9nm)_<20>/Cu5nmが作製できている。目下,その断面試料を作製し,電子線ホログラフィにより各層の磁化方向を確認中である。同時に断面試料の電子線回折を観察したが,層数が高々20層と少なく,また,電子顕微鏡像で観察した層の境界が完全な平面ではないことなどからCo/Cuの層状構造による回折斑点はまだ得られていない。
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