次世代固体メモリとして注目されている実用化間近の磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)における読み出し時のエラーレートの低減や高密度化や高速動作化のためには、強磁性トンネル接合(MTJ)において、高い磁気抵抗変化率を維持しつつ、接合抵抗を低減することが必要不可欠で、ピンホールなどの欠陥の少ない均一な組織を有する極めて薄い絶縁膜を作製しなければならない。本研究では、被酸化物であるAlの仕事関数より大きなエネルギーを有する紫外光をウエハに照射することによりAl表面から発生する光電子をウエハに印加する負のバイアス電界を用いて電界加速し、Al薄膜近傍の酸素分子に衝突させることで励起する酸化種のエネルギー準位を制御し、高品質な極薄絶縁層の作製を目指すものである。 本年度は、エネルギー準位が原子状酸素ラジカル・酸素分子イオン(プラズマ酸化)より低く酸素分子(自然酸化)より高い原子状酸素を酸化種として用い、極薄金属Al膜をマイルドかつ高品質に酸化させることを試みた。 金属Al膜の原子状酸素による酸化は、プラズマ酸化(酸化種:ラジカル・イオン)の場合に比較して、瞬時に形成される酸化膜厚(反応律速酸化膜厚)が4.5Åと極めて薄く(プラズマ酸化の場合は9Å)かつ拡散により形成される酸化速度(放物線速度定数)が1.1×10^<-17>cm^2/sと小さい(プラズマ酸化の場合は1.8×10^<-15>cm^2/s)ことがわかった。その結果、原子状酸素による酸化法を用いることにより、プラズマ酸化法を用いる場合に比較して、より薄い金属Al膜(5Å程度)の過不足のない酸化を実現できることが判った。また、原子状酸素によるAlの酸化において、熱処理を施さなくてもストイキオメトリックなAl酸化物が形成されることもわかった。 本研究成果により、高い磁気抵抗変化率・低い接合抵抗を有する強磁性トンネル接合の形成が実現された。
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