本研究は、励起子束縛エネルギーの大きい酸化亜鉛(ZnO)半導体に着目し、励起子の物質中の波長程度のZnO薄膜を、対向する反射鏡で挟み込むことにより微小共振器を形成し、励起子と電磁波の連成波(励起子ポラリトン)を共振器モードと結合させることによってその安定性を高め、室温において共振器結合励起子ポラリトンを観測することを目的として行っている。 一方の反射鏡にはMgZnO/ZnO多層膜を考え、そのエピタキシャル成長には独自に開発した「ヘリコン波励起プラズマスパッタエピタキシー(HWPSE)法」を用い、もう一方の反射鏡には、電子ビーム蒸着による誘電体多層膜反射鏡を用いることを考えている。 本年度は、HWPSE法を用いて初めてMgZnO混晶のエピ成長を行った。まず、ZnOおよびMgZnO薄膜成長中のHWP分光測定を初めて行い、MgZnO薄膜形成中にはZnおよびMg原子からの強い発光が観測される事を見出した。従って、成長にはターゲットから飛び出すZn-O分子やMg-O分子だけでなく、カチオン原子が寄与している事を明らかにした。また、ターゲットの組成を再現性良く転写したMg_<0.06>Zn_<0.94>O混晶エピタキシャル薄膜の成長に成功した。 次に、微小共振器の構成部品となるSiO_2/ZrO_2誘電体多層膜および、MgZnO/ZnOとAIN/GaNの半導体多層膜の設計を、分布ブラッグ反射鏡の反射率計算から行った。その結果、誘電体多層膜では屈折率差が大きく取れることから、膜厚誤差ほぼ3nm以内で62.0nm/42.7nmの周期構造を8周期形成することにより99%の反射率が得られるが、半導体多層膜では同等の膜厚比で40周期程度堆積する必要がある事がわかった。これらは技術的に達成できる結果であると言える。 さらに、HWPSE法以外の成長法により成長されたZnO薄膜結晶を用いて励起子と電磁波の連成波の観測も行った。次年度はまず多層膜反射鏡共振器を形成し、エピ層を挟み込む予定である。
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