脳に電気的な刺激を与えることにより神経細胞活性が制御されることが報告されて以来、電気的な刺激を与えることにより脳の可塑性が制御できないかといった研究が100年以上続けられてきた。最近では、工学的技術の進歩、基礎研究のための諸技術が進歩したことにより、より効果的な方法を用い、ヒトが失った機能を補う方法が開発されるようになってきた。 これらの目標を達成する上で主に重要な点は、1、埋め込み型マイクロデバイスの開発を生物学的方向からと工学的方向からの両方から行い刺激装置を開発していくことと、2、脳の可塑性制御に必要な電気的情報が何であるかを解読することである。よって、これまで蓄積してきた基礎データをもとに、治療用デバイスの開発のための基礎研究として、神経細胞に様々なパターンの電気刺激を与えて、分子の挙動を観察するための培養細胞用電気刺激装置の開発を行ってきた。その装置を用い、様々な神経活動のパターンを強制的に与えることにより分子の挙動との関係を網羅的に明らかにし、重要なパターンを抽出してきた。そのなかでも特に神経栄養因子であるニューレグリンはパターン制御において重要な役割を果たしている。 本年度は、ニューレグリン分子を用い、遺伝子発現と蛋白のプロセッシングと神経活動パターンの関係を明らかにし、発生段階を追った小脳スライスでの神経活動パターンと照らし合わせることにより、神経活動パターンのもつ意義を類推することに成功した。また、神経回路網の解析として小脳苔状線維の小脳核から小脳皮質までの投射を網羅的に解析し、三次元的なマップの構築を行った。その結果、顆粒細胞の苔状線維からの投射の組み合わせは小脳部位により異なることが明かとなり、神経活動パターンのもつ意味合いが部位により異なることが明かとなった。これら生物学的情報をもとに刺激電極の開発を行い、刺激電極に関する特許出願をおこなった。
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