研究概要 |
PbTe/CdTeヘテロ接合を対象に,GaAs基板上に集積化した中赤外線領域の光電子デバイスの開発を目的とした.PbTeは3μm帯に対応する直接遷移型半導体で,開発が遅れている中赤外線領域の受光・発光素子材料として注目を集めている.近年BaF_2(111)を基板にPbTe/PbEuTeヘテロ接合が発明され,ヨーロッパ諸国やロシア,アメリカを中心に実用化研究が進んでいる.室温連続発振可能な半導体レーザーが実現しているが,絶縁性(111)基板のため光励起型のVCSEL構造に限定され,受光素子との集積化が困難という問題がある. 本研究では,電流注入型発光素子の実現と受光素子との集積化を考慮して,汎用性の高いGaAs(100)を基板とした新しいヘテロ構造を開発する.障壁層にはPbTeと格子整合するCdTeを選定した.高品質CdTeをGaAs(100)にエピタキシャル成長させる技術はすでに開発済みである.当研究は3ヵ年計画で,初年度となる今年度は(1)PbTe/CdTeヘテロ接合を用いて光電子集積デバイスの基本要素である量子井戸構造を作製すること,(2)PbTe/CdTe量子井戸構造の光励起発光特性を解析して受光・発光素子への適合性を調べること,を実施した. その結果,分子線エピタキシー法で成長したPbTe/CdTe量子井戸から中赤外PL発光を世界で初めて実現し,極低温から500Kまで発光スペクトルを得ることが出来た.温度依存性を解析して,発光が量子井戸に閉じ込められたキャリアの再結合に基づくこと,PbTe井戸層とCdTe障壁層の熱膨張係数の差による内部歪が発光スペクトルに大きく影響を与えていること,を明らかにした.室温以上における発光強度は従来のBaF_2,基板PbTe/PbEuTe構造よりも強く,この新しい材料システムが中赤外線領域の受光・発光素子材料として有望であることを実証した.成果を国際会議で公表した後,海外他大学や国内企業から共同研究の申し込みを受けている.
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