研究概要 |
研究代表者らはこれまで各地の河川・海岸の地形変動に関する研究を行って来た.従来,過去の河川・海岸地形を知るためには,国土地理院をはじめとするさまざまな機関により撮影された航空写真や地形図などが用いられてきた.そのため,過去にさかのぼれる時間スケールは数十年オーダーが限界であった.しかし,さらに時間をさかのぼることが可能な資料として,「伊能図(大図・中図・小図)」に代表される各種の古地図が存在する.また、幕末に黒船の来襲が頻発するにつれ,沿岸域での警備の必要性から各地で詳細な地形図が作られていることも知られている.これらの資料は単に地理学上の価値を持つのみならず,河川・海岸工学的にも貴重な地形情報を包含していることが期待される. この様な目的で古地図を使用する場合,地図自体に各種の誤差が含まれていることを考慮すれば,当時から現在にかけて,誤差を上回るほどの大きな地形変化があったと予想される箇所においてこの様な資料を利用することが望ましい.砂防事業やダム堆砂の影響が無く,現在に比べて多量の土砂流出の影響を受けていた河口近傍はその意味でふさわしい研究対象である.また,一方向の沿岸漂砂の卓越する海岸における漂砂系の末端においてもやはり顕著な地形の変化があるものと期待される.そこで,本研究においては前者の例として仙台海岸・名取川河口近傍,後者の例として石巻海岸の漂砂系末端に位置する野蒜海岸を対象として検討を行った.その結果,以下のことが明らかになった. 1.名取川河口部においては,海側に凸状に張り出した汀線形状が見られる.隣接する阿武隈川の河口においても同様な河口地形が認められた. 2.野蒜海岸においては,現在では陸繋化している宮戸島が陸から離れて存在しており,この地域における多量の砂の堆積を確認できた.
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