研究概要 |
海岸地形や河川地形の変遷に関する検討を行うためには,これまで国土地理院や各種行政機関により発行された各種地形図や空中写真などが用いられてきた.しかし,これらによりさかのぼることの出来る時間スケールは数10年オーダー,長くても100年程度のものであった.一方で,我が国の各地で沿岸域・河川流域を含む古地図が作成されており,これらは工学的にも貴重な地形情報を包含していることが期待される.そこで,本研究においては,伊能図に代表される古地図が有する地形情報に関する検討を実施した.伊能図は今から約200年ほど前に伊能忠敬により作成され,我が国全域を網羅する我が国初の本格的な地図として,現在でも大きな関心を集めている.伊能図に関してはこれまで人文地理の視点から注目を集めることが多かったが,海岸地形・河川地形の研究分野においても,200年以上も前の地形情報を与えるものとして貴重な存在であると期待される. そこで,仙台海岸,石巻海岸および秋田海岸周辺の伊能図の解析行い,その地形情報の精度に関する検討を実施した.特に,阿武隈川や北上川といった比較的大規模な河川が流入している仙台海岸,石巻海岸を対象とした検討においては,国土地理院発行の地形図と併せることにより,平均的汀線前進速度を見積もることが出来た.また,秋田海岸を対象とする解析においても,現在の汀線位置に比べて有意な差が認められた.これにより,200年程度の古い地形情報を解析することの有効性が示された.
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