研究概要 |
高度経済成長期に建設された鋼構造高層建物がもつ耐震安全性が,現在の鋼構造高層建物が有する耐震安全性に対してどの程度に位置するのかを「量」として示すこと』を命題とし下記の4課題を遂行する,(1):高層鋼構造建物の耐震安全性を支配する諸因子を抽出し,それぞれの因子が過去30年間にわたってどのように変遷してきたかを明らかにする;(2):各因子ごとに昔と現在の(技術)差を分析・定量化,ついでこれらを統合することによって,当時の高層鋼構造建物が有する耐震能力を予測する;(3):約30年前に建設された鋼構造建物の一部を実際に切り出して製作した試験体に対する載荷実験を実施し,(2)の予測の確からしさを検証する;(4):(2)〜(3)の知見を集積し,当時の高層鋼構造建物と同じ耐震性能を有する鋼構造物(部分)を再現する技術的可能性を明示する. 上記研究課題のうち(1),(2),および(3)の一部を実施した. (1)に関連して比較の対象として,(a)設計地震力と耐震解析技術の変遷,(b)構法(含む接合部),(c)鋼材品質,(d)溶接材料品質,(e)鉄骨工事品質管理体制,(f)溶接施工(溶接技能者),(h)溶接検査をとりあげ,文献調査に加えて,1960年代に日本建築学会鋼構造委員会で活躍した当時のリーダー達へのヒアリングを実施した.その結果,現在の高層鋼構造理物の性能を1.0とすれば,当時のそれが平均にして0.8であるという結果を得た.技術が未成熟であったことによる失敗や欠陥が主たる負の要素,高度経済成長下で業界がいきいきしていたことによる活力が正の要素として浮かび上がった.また当時の高層鋼構造建物がもつ耐震性能を直接測るべく,1970年に竣工した鋼構造建物の柱梁接合部の一部を譲り受け,これに対する載荷実験を実施した。載荷に先だって超音波探傷(UT)試験を、また載荷後は破断接合部を切り出してマクロ試験をそれぞれ実施し、当時の接合部がもつ性能と品質を明らかにするとともに、UT試験の確からしさを検証した。UT検査の結果相当数の欠陥が検出されたにもかかわらず、0.06radまで接合部が破断することばなく、板厚が小さかったとは言え、思ったよりも高い性能を有していることが明らかになった。また載荷後の観察から、欠陥同定に関するUT検査の程度がいまなお検査員の技量に相当依存することが明らかになった。
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