この研究の目的は、都市・集落レベルの遺産を保全するための学的根拠となる方法と、その文化的意義を裏づけする展望を融合し、世界遺産に登録された文化財を中心に、社会に還元するためのマネージメント(デザインプロデュース手法を含む)方法論を整理、構築することである。日本で登録されている世界遺産は、ノミネートエリアとその周辺の緩衝地域であるバッファゾーンに分かれて、世界遺産保存計画として申請されていることが共通の登録方法になっている。文化財として登録されているすべての物件は、文化財保護法を中心に、複数の法律によって遺産保護が図られている。それぞれの物件においてかけられている法律は異なり、当然所轄担当部署も異なる。調査を行った白川郷においては岐阜県大野郡白川村と富山県東砺波郡平村と上平村の3つの行政に分かれ、遺産保護に関してはそれぞれの教育委員会が担当している。これらの物件のノミネートエリアは、伝統的建造物群保存指定を行い、合掌造りの民家および周辺の水路等を保存対象にしている。このエリアの範囲は伝統的建造物群保存指定によって指定している範囲をさしている。また農地法、農振法によってノミネートエリアの農地が保護規制されている。周辺地域のバッファゾーンに関しては村全域を対象にしており、村の「環境の確保に関する条例」で規制している。また国立公園法、自然公園法の国法で白山国立公園にかかる区域が保存されている。他に、保安林、砂防、県の自然公園法がかかっているはずであるが、教育委員会も把握していない状況である。このように世界遺産の保護計画に関しては様々な法律を運用しており、従来の文化財保護の考え方を大きく広げた手法が適応されている。他の登録遺産も現在調査中であり、遺産のおかれている環境により、バッファゾーンを構成している法的根拠が異なることがわかってきている。
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