薬師寺東塔西塔の振動観測の背景:創建西暦730年の東塔は現在に至るまで約1300年近くの歳月を耐え抜いて来た。しかし、1995年には阪神・淡路大震災で塔身が傾き、1998年の台風では相輪が曲がり、水煙も歪んだ。 1)現状:不同沈下がひどく、西側の礎石が沈下して傾いている。心柱継ぎ手部分の痛みがひどく、強風時には音をたててきしむ。心柱根元部分が蟻害で約2m中空となっている。組物の傷みもひどい。 2)振動観測:強風時の観測波形の比較=100秒間の平均振幅は塔身で2倍、心柱で4倍、東塔が大きかった。塔身水平方向振動・回転振動と心柱水平方向振動=振動特性は、両塔とも2次の固有周期では塔身に対して心柱が大きく揺れるが東塔の1次2次の固有周期は近く1次のモードで継ぎ手部分で大きく折れ曲がる。上下方向の振動が起こす上層の傾きは水平変位にかなり影響する。本研究ではこれを「回転振動」と呼ぶ。東塔1次の固有周期で下層の振幅が上層を上回りせん断変形が負となる箇所があった。回転振動を考慮すれば西塔の1次モードでも見られた。振れ振動が観察された。 4)地震応答解析:東塔は西塔に比べ相輪が大きく振られるように揺れていることが分かり、局所にも大きく負担がかかっている層があることが分かった。また、両塔とも相輪にかかる負担が大きく、東塔では弱っている継ぎ手付近にも負担がかかることが分かる。塔全体の運動エネルギーに対し、各層の回転運動エネルギーが占める割合が最大約25%と大きく、塔が各層で回転振動することにより水平方向の振動を軽減している可能性があると考えられる。 現地観測の結果、○西塔に比べ東塔の振動性状が特異である。 ○異常に大きな揺れが局所的に励起されている。 ○東塔の心柱の損傷が塔の振動特性に影響を及ぼしていると考えられる。 ○地震時には両塔とも相輪にかかる負担が大きい。 ○さらに東塔では継ぎ手部分にも大きく負担がかかる。 ○回転振動が水平方向の揺れを軽減する可能性が高い。
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