平成15年度に達成した実績および得られた成果は以下の通りである。 1 真空排気装置を新規に導入すると共に、石英またはアルミナ製反応管を作製した。これらを既存の高周波加熱装置に設置し、金属蒸気収着装置とした。 2 上記の高周波加熱式金属蒸気収着装置を用いて、収着条件と磁石性能との相関を明らかにした。その結果をもとに、高周波加熱に基づく希土類金属蒸気の発生、収着等の条件を最適化することで同手法の確立を目指した。 3 上記と平行して、Nd-Fe-B系焼結磁石を微小加工により円筒状、立方体状、または粉末状とし、これらに希土類金属を三次元スパッタリングあるいは金属蒸気収着の各手法で立体的に成膜後、不活性雰囲気中で加熱処理することで磁気特性の改質を行った。その結果、希土類金属の中でYb、Dy、およびTbにおいて、上記の処理により保磁力が大幅に回復し、特にDyまたはTbでは微細加工に供した磁石よりも更に保磁力が向上することを見出した。そこで、この原因を明らかにするために、上記の改質前後の磁石試料の微細組織の組成分布をEDMAの手法を用いて調べたところ、三次元スパッタリング法や金属蒸気収着法により導入された希土類金属は、融点の低い粒界相を選択的に拡散し、Nd_2Fe_<14>B磁石主相の中には導入されないことが明らかになった。これにより、通常DyやTb金属を予め添加することで所望の保磁力を発現させているNd-Fe-B系焼結磁石に対してそれらの元素の添加を低減することが可能であり、Nd_2Fe_<14>Bの低い磁化に基づく通常のNd-Fe-B系焼結磁石の場合、DyやTb金属添加に伴う高保磁力化とトレードオフの関係となる磁化の低下を有効に回避することが可能となると期待される。事実、その後の実験において、DyやTb金属の添加量の低い高磁化型Nd-Fe-B系焼結磁石では上記の処理によりおよそ70%の磁化の増加が、添加濃度の高い高保磁力磁石ではおよそ40%の保持力の向上が、両者共磁化の値をほとんど低下させることなく実現できることが明らかになった。
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