光触媒の可視光応答性を改善するために、価電子制御理論に基づく合金化により、正孔を安定に導入し、バンドギャップの改質を目指した。前年に有効な合金元素としてホウ素添加の効果を調査し、メチレンブルーの分解および接触角測定から、わずかではあるが可視光照射下での触媒活性の改善を明らかにした。しかし、添加をイオン注入法により行っていたため、正孔と添加元素の導入以外に不可避な格子欠陥の生成が懸念され、本年は注入後の熱処理による構造変化と触媒機能変化について調査した。二次イオン質量分析(SIMS)によるボロンの深さ分析を行った結果、注入材では表面近傍にボロンは濃化していたが、熱処理によりボロンは内包に拡散していた。またX線光電子分光法(XPS)解析の結果、注入材では、Tiの価数が低下しTi^<3+>の形成が確認されたが、熱処理により価数はもとの4価に戻ることが明らかとなった。一方、熱処理を施すことで、B1sスペクトル強度は著しく低減しておりSIMSの結果と合致していた。熱処理材では、可視光照射下における接触角の増加や、メチレンブルー分解特性の低下が明らかとなった。以上より、光触媒特性の可視光応答性の改善にはボロン添加が有効であるものの、製造方法をイオン注入法で行ううえで不可避な欠陥除去を目的とした熱処理は、逆に可視光照射下での光触媒特性を劣化させることが明らかになった。これは合金化により得られたTi^<3+>の酸化と添加ボロンの内包拡散に起因すると考察した。以上の結果を受けてTiの還元を目指し、水素による還元熱処理を施した結果、可視光照射下での光触媒特性の更なる改善を確認した。
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