中性子応力測定法の課題のひとつは、応力フリー状態の格子面間隔を精度良く測定もしくな推定することである。また、一般には応力主軸が未知なので、6つのひずみ成分を測定して6つの応力成分に換算し、主応力と主軸を求めることが必要になる。これらを系統的に処理する方法として、7方向以上の線ひずみを求めて、連立方程式を解き、主軸と主応力の大きさを決定することを研究の目的とした。 まず、応力主軸が自明である試料として、高周波焼き入れしたS45CおよびSCM440鋼丸棒(応力分布がなだらかになるように深めに焼きを入れた)を用意した。簡便法であるX線応力測定法を用いて逐次表面を研磨しながらsin^2φ法で表面2方向の応力を測定し(非破壊法ではない)、単純形状であるので解析解を利用して半径方向の応力を推算し3次元応力状態の表面から内部にかけての分布を明らかにした。残留応力分布が既知の上記試料を用いて中性子回折角度分散法(原研のRESAを使用)により非破壊的に内部の弾性ひずみを主軸3方向から測定し応力に換算した。この時の応力フリー基準面間隔は試料を細かく切断して組織依存性を含めて実測し計算に用いた。その結果、破壊的手法であるX線2次元測定から推定した内部の応力状態と中性子で直接測定した応力はよい一致を示すことが分かった。 次に、一般化するために、他方向から測定し、その中から3つを選んで主応力を推算し、測定角度の選択方法を検討した。次に、4方向を選んで応力フリー状態の面間隔も未知数として、計算を試みた。さらに、7方向からの測定値を利用すれば、主軸も未知変数とすることが可能と思われるが、これに関しては、来年度、さらに測定方向を増やして検討する。 飛行時間法中性子回折法では測定体積を絞ることが困難であったので、パーライト加工材の相応力を対象として、上記の検討を行っている。ビーム強度が大きいJ-PARCの利用開始までに基本的手法の目途をつけておきたい。
|