研究概要 |
本助成により、工業的に重要である反面、高価であるために研究の進んでいなかった希少金属類のスパッタリング反応に関する研究を行った。本研究期間に対象とした希少金属は、白金およびパラジウムである。比較のために同じ10族金属であるニッケルについても実験を行った。これらの金属は非常にスパッタリング効率が高いことが知られており、工業的に重要な希少金属類の研究の手始めとして最適であると考えられる。 白金を含む活性種に関する分光学的情報は極めて少ないために、監視する分子種は現状ではかなり制限を受ける。まず数少ない情報を元に、酸化白金Pt0のミリ波・サブミリ波スペクトルの観測を行なった。反応ガスとして少量の酸素ガスをアルゴンガスで希釈したものを用いた。Pt0については、回転スペクトルがまったく観測されたことがない。そこでスペクトルの捜索から始めて、ついで帰属・同定を行って正確な分子定数を決定したPt0のスペクトル長時間の実験を行なっても強度はさほど減少せず、実験終了後のターゲットにも大きな変色は見られなかった。これは、白金の腐食性の小ささから予想される通りであった。 また白金とその同族元素は一酸化炭素と親和性が高く、揮発性の金属カルボニル錯体を生成することが知られている。この性質を利用した一酸化炭素によるスパッタリングの可能性が以前より指摘されている。そこで、この反応により生成すると考えられるカルボニル錯体M(CO)_nのうち、反応の初段階で生成すると考えられるMCOの検出を試みた。この分子種のスペクトルはかなり弱くその検出にいくぶん苦労したが、最終的に弱いPtCO, PdCO, NiCOのスペクトルを検出することができた。このMCOの生成は反応条件の変化に敏感であり、生成量を一定に保つことが極めて困難であった。2〜3時間の実験を行なうとターゲット表面は激しく変色し、MCOの生成量は大幅に低下した。この汚れは、放電により生じた炭素系化合物がターゲット表面に付着して生成したものだと思われ、おそらくこれがスパッタリング反応の不安定さをもたらしていると考えられる。また白金の場合Ptcoの生成中にはプラズマ中での炭化白金PtCの生成は確認できないことからも、スパッタリングにより気相中に移動した白金は主としてカルボニル錯体の形で存在している可能性が高いと考えられた。
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