研究概要 |
本年度は,ケギン型ポリオキソメタレート[α-XW_<12>O<40>]^<n->とカチオン性金属錯体[Cr_3O(OOCH)_6(H_2O)_3]^+を基本構成ブロックとして,種々のナノ構造体を構築した.構造体の親水空間の利用により,アルコール混合物を分子のメチレン鎖一つ分の違いで分離することが可能となり,アルコールの酸化反応が形状選択的に進行した.このような化学的特性は,固体ホスト-ゲスト分子間のイオン-双極子相互作用と,ゲスト分子の収着に伴う固体ホストの格子エネルギー変化のバランスにより決定されることが定量的に示された(Chem.Eur.J.2003).[α-CoW_<12>O_<40>]_^<6->を構成ブロックとした構造体は,固体内に水のみ収着してアルコールは収着せず,共沸混合物であるエタノール/水混合溶液から水のみ収着し,ゼオライト(MS-4A)よりも高い分離能を示した(J.Am.Chem.Soc.2004). さらに,以下の三点が明らかとなった.第一に,カチオン性金属錯体として[Cr_3O(OOC_2H_5)_6(H_2O)_3]^+を用いた場合得られた構造体には,ポリオキソメタレートに囲まれた収着水の存在する親水チャネルと,錯体の架橋配位子であるプロピオン酸イオンの炭素鎖に囲まれた収着水の存在しない疎水チャネルが存在した.二つのチャネルは連続しており,ゲスト分子はチャネル間を移動可能である.構造体の分子収着特性を検討したところ,水よりもアルコール分子の収着量が多く両親媒的な分子収着特性を示した.第二に,カチオン性金属錯体として,多価カチオンである[Co(tacn)_2]^<3+>(tacn=triazacyclononane)を用いた場合,得られた構造体は,水及び各種有機溶媒に溶解せず,多価アニオン-多価カチオン間の強い静電的相互作用により安定な個体として得られた.特に合成溶媒として水を用いると,生成物は30-40nmの均一な微粒子として得られ,窒素比表面積は50m^2g^<-1>程度と大きかった.構造体の分子収着特性を検討したところ,炭化水素類の吸着量が水やアルコールよりも多く,固体表面は疎水的であった.第三に,過酸化水素の活性化能を有する[γ-SiV_2W_<10>O^<40>]^<6->を含む構造体においては,過酸化水素を酸化剤としたアルコールの酸化反応が触媒的に進行した(ターンオーバー数=10-70).これは[α-SiW_<12>O^<40>]^<n->を用いた場合に,同様の反応のターンオーバー数が1に満たなかったこととは大きく異なる.さらにオレフィンやアリルアルコールのエポキシ化反応に有効な[γ-SiW_<10>O_<34>(H_2O)_2]^<4->(Science 2003)や[{{W(=O)(O_2)_2(H_2O)}_2(μ-O)]^<2->(Adv.Synth.Catal.2003)の固定化も試みている. このように,ナノ構造体の構成イオン種(ポリオキソメタレートあるいはカチオン性金属錯体)の分子構造を変化させることにより,固体の分子収着特性や触媒特性を制御することが可能となった.
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